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坂本光昭さん

男一人で育てた息子の
正装用シャツ

18.01.08
HIROSHIMA

坂本光昭さんは、優れた塗装職人として働きながら男手ひとつでひとりの子どもを育ててきました。父親が親権を持つという珍しいパターンであるが、同性の男の子だったから引き取ったのかもしれないと話してくれた坂本さんの子育てと職人としての仕事のこと。

1966年生まれ、今年51歳になる塗装職人の坂本光昭さんは、木の塗装を専門に多くの職人や顧客から信頼を得ている。いまの会社に入り塗装職人となって今年で21年目になるのだが、30歳で入社するまでは、楽な仕事ばかりを探してフラフラと仕事を変えていたという。高校を卒業して、精肉会社に就職するも、入社日にスーパーへの配置を伝えられ販売をすることとなった。そもそも工場で肉を切ったりする仕事を考えていた坂本さんは、半年で辞めてしまう。その後も、建材屋のエクステリア卸しに3年、石鹸洗剤メーカーの営業に1ヶ月、食品の卸しに5年勤め、いまの仕事に行き着いた。

そんな状態が続き、「また辞めたんでしょ。どうすんの?」と周囲に言われ、「こういう仕事あるけどやってみる?」と紹介されたのが、木工の職人の仕事だった。ところが、

「いや、もう本当に初日から辞めようと思いましたけどね。周りの職人が厳しかったのもあるし、あとは工場が嫌やって思いました。何かできるわけじゃない、真っ白な状態なのにそんなこと思ってました。上司がかなり年配の方ばかりで、定年とかどんどん辞めてったんですよ、3年のうちに。6人いた塗装職人が、最後一時は僕ひとりでしたから。で、まあ残っちゃったし、やるしかないなっていう感じでしたね」

十分な修行期間が与えられたのかといえば、そんなことはなかったようだ。人が辞めていこうが、お客さんは来るわけで、できるように「ならざるを得なかった」し、「できないとは言えない」言えなかったという。「今だから言えますけど、最初はたまたまうまくいったということもあった(笑)」。徐々に仕事に慣れ、5年目くらいからは褒められることも増え、自信を持って仕事に臨めるようになって仕事も楽しくなってきたそうだ。

塗装の工程は大きく3つに分かれる。着色剤をつけ、作業古着や古布を再利用した布(ウェス)で拭き取り目を出していく。中塗り、上塗りと進めていきながら、途中もウェスでの拭き取りとサンドペーパーでの研磨も繰り返していく。表に見えている色が赤だとして、その裏には複数の色が使われているという。

「同じ色を次に出そうと思っても木が違うと違うんですよ。車だったら同じ塗料を同じように塗れば基本的にはいいんですけど。」

今、29歳の若手がひとり部下にいる。

「あいつはなかなか優秀で、あと5年もしたら僕を超えるんじゃないかな(笑) ふたりでずっとやってきて忙しかったので教えるというよりも、任せたら勝手にうまくなってきました」

坂本さんには、食品会社勤務時代に生まれた20歳になるひとり息子がいる。中学1年の頃、奥さんとは離婚。結果的に坂本さんが親権を得て、男手ひとつで育ててきた。小学生の頃から家庭内で離婚話が出ていたことをきっと息子は気づいていただろうと坂本さんは言う。息子は自分に懐いている、自分が育てるんだという思いで親権を主張したという。

「多分、僕、勘違いしてたんでしょうね。お父さん子だったので、もう自分が面倒見るっていう勘違い。自分が親権を取ったら幸せになるって感じてたんですよ。でも、後から女房に聞いたんですけど、『もう母さん、家帰らんよ』という電話を息子にした時、泣きおったって言うんです。ああ、やっぱり親って両方大事なんだってあらためて知ったんです。僕の勘違いだったんかなあ思って」

それでも坂本さんは仕事と子育てを懸命に続けた。仕事を終えて晩御飯を作り、朝は高校三年間、弁当を作った。なるべく冷凍ものを使わず、朝からちゃんと調理していたそうだ。中学2年のある時期、部活と学校に行かなくなることもあった。坂本さんは叱り、ビンタをしたという。

「ここで止めたいと思ったんです。でも言葉にならない思いがありました。息子は気づいてないかも分からないですけど、ちょっと自分が情けなくてウルっときてましたし。決して腹立ってやったとか、そんなんじゃないんですけど、ここで絶対どうにかしなきゃと歯がゆい思いでしたよね。それまで子どもを叩いたことないですから、いざ叩く時も、耳に当たらないようとか考えながら当てるから効かないんですよ。当時ですでに僕よりも背が大きかったくらいだし。一方的にお父さんが怒るみたいな。なんで分からんの! みたいな感じで、無反応でした。全然痛くないけどみたいな顔しとったですね。」

そんなことがありながら、それ以後息子さんが非行に走るということはなかった。中2の時、職場体験で経験した老人ホームの仕事が「意外と向いとる」と先生から言われ、意識が動いたのかもしれない。高校を卒業後、介護専門学校に通って介護士の資格を取り、現在介護士として仕事をしている。今も適度な距離感を保ちながらいい関係で一緒に住んでいる。

「異性、娘じゃなかったのは幸いしました。娘だったら、男親ではわからないことも多くて、親権も強く言わなかったかもしれません。男同士2人でね、たまに話をするんです。ほんまに話をすることがあると楽しいですよ。普段はお互いクール。でも、何かハマることあると話しをしにくるんです。なんでもない話なんですけど、その時は本当に楽しい。どんどん話に来るから多分、息子も楽しいんだと思います。」

誕生日やクリスマスの時も、「どっかに飯食いに行こうか」とか「ケーキ買ってこよう」と提案しても、シャイな息子さんは「そんなもんはいらんよ」と強がるでもなくあっさりしたものだったそうだ。逆に坂本さんの誕生日に、以前ちょっと話題にしたことのあった『風の谷のナウシカ』に出てくる巨神兵のフィギュアをプレゼントしてくれたこともあった(坂本さんは仕事を活かして綺麗に塗装したそうです)。悩みがある時は、母親に相談していたそうなのだが、彼女ができると家に連れてくることもあるという。

「今まで三人連れてきましたけど、僕も気を遣いますよ。連れてくるのは、付き合って1カ月後ぐらいじゃないですか。気まずいので、僕から『飯、食いに行くか』とか言うんですけど、『いや、いい』って。でも、まあすぐフラレてます。」

もしそのまま結婚して別に家庭を築いていったとしたら、大事に育ててきた一人息子だけに寂しいのではないかと思ったのだが、

「逆に俺は『お願いします』って言いたいくらい。別の所に住むなら住んでくれてもいいから、ぜひお願いします。ただ彼女を見ると、いつもしっかり者を連れて来るから、あぁきっとフラれるだろうなってわかってしまうというか。続いてほしいとは思ってるんですが……。」

相手がしっかりしているとフラれるという息子さんの性格はわからないのだが、親目線で見れば子どもはいつまでたっても子どもに見えているということではあるだろう。とはいえ、彼女ができると父のいる家に連れてくるというのは、父との信頼感や関係性ができているということでもあるように感じた。

「まあ、そうですね。ひとつ言ったことを思い出しました。高校生の頃、彼女のできなかった時期あったんですが、なんかそれを気にしちょったんです。だから『気にしてあんまり女、女って思いつめるな。人生、女だけじゃないんだ』って。焦ってもうこの子でええやみたいな感じでいかれても困る。一応それだけは言うときました。無反応でしたけど(笑)」

「僕は三人兄弟の末っ子だったんですね。末っ子だから甘ったれに育って、こんなに苦労してる(笑)。逆に息子は一人っ子なんで、三人兄弟のにぎやかさを知っていると、寂しいじゃろうなって思うんです。兄弟おらんの悪いなあという気持ちはずっとありました。だから、自分が連れまわすしかないなと思って、いろんなところに連れていきました。もし兄弟いたら、こんなに僕も一緒にいなかったかもしれません。だからなおさらいい人と結婚して、家族を作ってほしいなって思うんです。」

今回ループケアするシャツは、息子さんが小さい時に結婚式出席用に買ったものなのだが、写真を見ると袖をかなりクルクルと捲くっている。

「当時親戚が結婚ラッシュで毎回これを着て行っていたんですが、大人用のサイズだったんですよ。かなりダボダボですけど、買った時点での女房の考えは、これから先も続いていくであろう結婚式。少なくとも3年は着れるようにというつもりだったみたいです。実際、よく着ていたのを覚えています。」

「昔は、結構たくさん写真を撮ってたんです。でも、父と息子だけになってあんまり写真も撮らなくなりました。でも、携帯で撮るようになって撮る枚数は増えました。二人で初詣に行った時も自撮りで二人の写真を撮ったりしています。」

シャツはアルバムへとループケアされる。プリントする機会はほとんどないというが、これから息子さんの大きな人生の節目があるかもしれない。その時にはきっとそのアルバムにはプリントされた思い出がたくさん入れられるはずだ。坂本さん自身、80歳までは現役で働くというから、アルバムに入れるべき写真をもっともっと撮っていってほしい。

「若い頃にいろんな仕事をしてきたから、50代に入ったばっかりの今でも職人としてまだ21年。80代までやればここからまだ30年ありますから。だからむしろこれからの方が職人としての時間は長い。ちゃんとまともに大人、職人になったのが最近だと思ってますから、やっとここがスタートっていう感じなんです。社会人になって30年ちょっとは早かったですから、あと30年あるとすれば一瞬なんですよね。時間がもったいないですよ。」

聞き手: 山口博之

写真: 山田泰一

PROFILE

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坂本光昭

塗装工場長 
銘木加工販売部長

1965年生まれ。
高校卒業後から様々な仕事を経たのちに、知人からの紹介で木工塗装の世界に飛び込む。
塗装の技術を磨いていくことと、男手一つの子育てに奮闘する日々を経て、今は、さらなる高みを目指して塗装の腕に磨きをかけている。

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