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田村幸士さん

父親からもらった
楽屋着の浴衣

18.02.18
TOKYO

阪東妻三郎を祖父に、田村亮を父に持つ“三代目”俳優として活躍する田村幸士さん。プロ級のスキーの腕を持ち、俳優以前の社会人経験も豊富な田村さんは、30歳を過ぎて俳優に転身した。俳優田村家を“継いだ”と表現する三代目と着物の話。

「着物を着た最初の記憶は、子どもの頃にお祭りで着た浴衣だと思います。着物は大学の卒業式です。卒業式では、祖父が生前穿いていたプラチナの糸が入った袴を着ました。何を着ようかと考えていた時、そういえば袴があるわよと母が出してくれました。祖母が亡くなるまで同居してサポートしてきた母は、田村家のことをいちばんよく知っているんです。」

昭和の芸能史に輝く、芸能一家。父である田村亮さんは、テレビや舞台の時代劇作品に数多く出演し、田村さんもその姿を小さい頃から目にしてきた。

「父は、舞台や時代劇が多かった人間なので楽屋では基本浴衣でした。だから浴衣や着物のある環境は普通のことだったんです。だから袴もすんなり自分が着るものという感覚で着られました。」

身近な着物だったが、自分で着られるようになったのは2011年、俳優になって初めての商業演劇「大奥」に出演したときだった。でも着られるようになってからも、日常で着るのは仕事や夏祭り程度。着物の魅力を再認識したのは、京都で伝統工芸、伝統産業の若旦那が出るイベントに参加させてもらってから。今回ループケアで日傘を作るのは、大奥の頃に楽屋や稽古で着ていた浴衣。

「この浴衣は舞台仕事で着る稽古着、楽屋着として父からもらったものです。実際これを父が着ているのも見ていました。楽屋着を探していた時、これがしっくりきたんで使わせてともらいました。時代劇の仕事では浴衣を着ています。ジャージの人もいるんですけど、僕は時代劇に向かう意気込みとしては劇中でも使う浴衣じゃなきゃいけないと思って、着ています。と言いつつ、浴衣は本当に楽なんですよ。着替えることが前提の楽屋着ですし、脱ぐのも着るのも一瞬ですから。」

浴衣や着物をよく譲り受けるというお父さんから、着物のアドバイスをもらうこともあるそう。

「やはり父は着付け方にすごい詳しくて、男はこうやって着たほうが粋だよとか、こうやったら1歩先行く感じになるよとか教えてくれました。父から言われていることがあって『知ったうえで崩すことはとても大切だけど、知らないで崩すことは良くない』と。つまり型破りと型なしの違いです。表面的には同じでも、知ってて崩しているのと知らないで崩れているのは出てくるものが違うんですよね。なので、基本をちゃんと分かった上で、僕はこうやって着るよと崩す人の方がかっこいいし、粋だし、説得力がある。だからちゃんと着付けを覚えろと。」

さすが様々な役を演じた経験からくる、品も粋も心得た人の言葉。若旦那たちとの出会いで気づいた着物の魅力、そして父親から教わった着物を着る人の心得。田村さん自身は、どう考えているのだろうか。

「現代の着物の魅力をすっごく平たく言うと、レストランやホテルなど、どこ行ってもサービスが良くなるということです(笑)。着物は着るのが難しいと思われていますけど、最初は着崩れたっていいんですよ。はだけてもそこから覚えていくことが重要。着付けがどうこう言われますけど、例えば今僕たちが着ている洋服も、気分でズボンの丈を短くしてる人もいるし、シャツのボタンを全部開けている人もいる。つまり、今僕たちが着物の着方うんぬんと言うのは、400年後の人間が平成って時代は丈が短かったようだから、僕たちも丈短くするのが正しいという話をするのと同じで、ナンセンスだと思ってるんです。だから、まずは着てみることだと思います。そこから楽しさを知って、本当の着方に興味を持ってくれたら。」
「もうひとつ着物の良さは、僕が父や祖父から着物を頂けるように、代々着続けられることにもあります。柄の流行り廃りはありますけど、時代を超えて着られる。丈が合う合わないじゃなく、寸足らずでも親のものを頂いて着たほうが、心も温かいですし、素敵なのかなと思います。そうやってつないでいくことって、着物や浴衣ができることなのかなと思います。」

田村さんは、最近ではそうした着物の魅力を伝えるべく、着物や日本文化のイベントのプロデュースもしている。

「祖父の頃から役者として京都に縁があるんですが、京都には着物への歴史も文化も保存への動きも多い。祖父が元々京都で活躍していたこともあって、そういうイベントに呼んでいただくことがあるんです。そこで伝統工芸の若旦那の皆さんとご一緒させてもらって、僕も知らないことがいっぱいあってすごさを再認識しました。これは日本人として知るべきだなと思って、男性の着物イベントをやることになっていた日本橋三越さんで、東京にいるいろいろな伝統工芸、伝統産業の若旦那たちのクロストークイベントを企画させてもらいました。若旦那たちは、昔からの伝統をちゃんと守りながら現代の感性に合わせて表現しようとしていることがいっぱいあるんです。」

今はまだ父親から譲り受けたものを着ることが多く、父親たちのセンスを借りて着ている感覚があるという田村さんが、自ら選ぶ着物はどんなものなのだろうか。

「着物は濃い色が好きです。着慣れていない自分は目立ちにくい細かい柄にしがちでしたが、竺仙という浴衣の老舗があって、六代目の小川茂之さんと仲良くさせていただいているんですが、 “柄を纏う”という言葉をおっしゃっていて、すごくいいなと。それで、今度大きい柄を着てみたいと思ってるんです。あと、雪柄も気になっています。自分がいま着るということだけじゃなくて、将来の子どもや孫も着られるものと思って買うなら、いいものも高くない。着物は何十年というスパンで着られるものだから、ちゃんといい物を買えばずっと着られます。そういう温かみが浴衣や着物の魅力だと思うので。将来『親父こういう柄が好きだったんだな』とか話もできますしね。」


着物を受け継ぐという視点で考えれば、50年も100年も先が自分ごとのように思えてくる。田村さんは元々そうした物を受け継ぐということに意識的だったのだろうか。

「恥ずかしい話がひとつあって。昔iPod miniを使っていた時、下取りに出して新しいiPod classicを買ったんですね。会計が終わった後、最初に店員さんにぽんと渡したきりでちゃんとお別れを言ってなかったと思いだして…。全部終わった後で言いにくかったんですけど、『すいません、最後にもう一度iPod miniを手元にもらっていいですか』と言って、特別な思い入れがあったわけでもないただのiPod miniなのに、小さく『ありがとう』と言ったら、ポロッと涙が出てきたんです。うわ、やばいと思ってすぐそのお店を出ました(笑)。穴の開いた靴下やパンツを捨てる時も儀式じゃないですけど、ちゃんとありがとうと言って捨てることにしています。もちろん全部がそうじゃないですよ。都合よくやらないこともありますけど、できるだけやるようにしてるんです。」

阪東妻三郎以来の田村家の宝物たちはさぞしっかり保管されているのかと思ったのだが、そんなこともなく、これまで多くのものが捨てられてきたそうだ。それをやめ、しっかり保管すべきだと考え実行したのが、田村家に嫁いできた田村さんのお母さんだった。

「母は田村家にとって外から来た人間だからこそ、そのすごさが分かってるんです。母と結婚するまで、父たちはうちの祖父のものもばんばん捨てていたそうです。本当にもったいないことをしていました。だから母がちゃんと残そうと、かろうじて残っていたフィルム缶などを保管するようにしたんです。」

田村家のすごさは外側の人間なら誰もが知っていると言っても過言ではない。そういう意味で自分は母親寄りの人間だと田村さんは話す。

「今は一周回ってやっと役者をやって良かったなと思えていますけど、元々は絶対役者にはなりたくないと思っていました。最初の社会人経験も役者の道も、どちらも父や伯父たち、祖父のこととちゃんと向き合った結果の行動だったのでどちらも間違いではなかったと思っています。学生時代からやらないかと周囲の大人から言われてはいたんです。でも僕は絶対嫌だった。父もやらせたいと思っていませんでした。多感な頃は、田村正和の甥とか田村亮の息子とか、前置詞が付いて紹介される自分って何者なんだろうと自問自答ばかりしていました。だからこそ僕は父たちとはまったく違う環境でやりたいことをやるんだと、スポーツ選手のマネージメントやテレビ番組の制作をしたりしました。その番組制作の仕事で1年半くらいNHKに勤務していた時、客観的に田村家を見る機会があって、『あ、田村家の役者の跡を継ぎたい』と思ったんです。うちの父が四人兄弟の末っ子で、従兄弟たちの中でも僕が一番年下。他に役者をやっている人もいませんでした。だから自分しかいないと思ったんです。でも最初は、演技がしたいというよりも“役者田村家”をなくしたくないっていう気持ちからでした。」

“役者を継ぐ”とはどういうことなのか。歌舞伎など伝統芸能以外の分野でこの表現はあまり使われない。伝統工芸の世界であれば、技術や知識を受け継ぐということがあるけれど、田村さんは何を継ぐと考えているのだろう。

「自分の中でもわからないときがありました。小さい頃から、親には『おまえが悪いことしたらお父さんも伯父さんも仕事なくなるよ』と言われていたんです。だから誤解されるようなこともしちゃいけないとずっと思っていました。特に今は、一瞬を切り抜くネットの世の中なので、その中で一瞬だけ切り取られても悪く思われないように生きなきゃっていうのは、ずっと思っている気がします。」

芸能人特有の意識の強さかもしれないが、特に芸能一家で三代目となればその責任は自分だけの問題ではなく、亡くなった祖父の偉業にまで影響するのかもしれない。小さな頃から周囲の目を気にし続けるというのは想像以上に苦しかったのではないだろうか。

「人からどう思われるかをすごい気にしていた時期がありました。でも、結局自分自身って自分で決められない気がするんです。例えばバラの花があって、それを形容するのは主観だと思うんです。きれいと言う人もいれば、とげとげしくて怖いという人もいる。同じように、僕のことをかっこいいと言ってくれる人もいれば、顔が濃くてタイプじゃないという人ももちろんいらっしゃる。だから100人友だちがいたら、100人の田村幸士がいる。それは自分がこうありたいという思いとは違ったりする場合もあるけれど、そう思われる全部を受け入れなきゃいけないんだと思うようになってから、すごい楽になりました。」

周囲の目を気にしながらも、すべて受け入れるという懐の深さ。これまでの経験がそのことを可能にするタフさを田村さんに与えているのかもしれない。

「僕にとって一番ナチュラルなのは、風が来たら風に従って傾くこと。その時、傾いた足首が気持ちいいかそうじゃないか、足の裏がざらざらするかつるつるするかというのを素直に感じて、それを音や声や動き、いろんなもので表現すれば、それは真っすぐな人間なんじゃないかと。そう考えてから楽になりました。だから継ぐということも、歌舞伎でもなければ特定の技術でもない。けれども、継いでるわけなんです。先代が残したイメージみたいなものを守りながらやると、やはり自分の活動の幅って狭くなります。特に今の時代、かつてのような破天荒なことしたら絶対ダメで、イメージが大切な役者にとっては大変な時代です。僕個人で言えば、もちろん他の方よりもスタートラインは恵まれていたと思うんですけど、そこから自分を出すのって相当難しい。それでも僕は、父と同じ仕事をしたいと思ってやっている。そのことそのものが、もう継いでいるということなのかなと思っています。」

そうしたマインド以外にも物理的に受け継いだなということがあった。

「京都の撮影所で鬘合わせしたんですが、父とずっと仕事をしてきた床山さんで、『亮ちゃんの頭と形が似てるね』って。『だったらこれが合うんじゃないか』と持ってきてくれた鬘を合わせたら、ピッタリだったんです。小さなことですが、自分の中では継いでいることを実感した瞬間でした。」

これからは自分自身の着物とたくさん出会い、纏っていくであろう田村さん。着物とはどんな付き合い方をしていくのだろう。

「最近、若い子がイベント事で浴衣や着物を着ているのを目にできてとてもうれしいんですが、僕たちやもう少し上の世代が着ていないんです。僕の歳になると腹が出てくるじゃないですか。そうするとポロシャツとかスラックスとかより、絶対着物や浴衣が似合うんです。男のダイエットが叫ばれますけど、年を取ってくるとあまり細いのも違う気がしていて。あえて太る必要はないんですけど、美しく太る方法が必要なのかなと思ったりしています。腹下に帯を回す浴衣や着物は、多少出た腹の方が絶対似合うから、体型を気にせずどんどん着てみて欲しい。普段のちょっとした食事に着てみようくらいの気持ちで東京に着物が増えたら、すごくいい街になると思っているんです。風景変わりますよ。」

テレビや舞台の上でその姿を見続けるであろう田村さんの着物への思いは日々募る。ますます着物の魅力を見つけ、発信していく人の片手には日傘が握られているはずだ。

聞き手: 山口博之

写真: 小野慶輔

PROFILE

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田村幸士

俳優

1977年生まれ。
スポーツエージェント会社、制作会社で勤めた後、祖父・父・伯父と同じ俳優の道を歩む。
<ドラマ>トドメの接吻、大岡越前2、レンタル救世主、カッコウの卵は誰のもの、白銀ジャック
<舞台>大奥〜第一章〜、あるジーサンに線香を、反逆のワイドショー

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